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よい店はトイレが設計されている理由

■なぜトイレで店の印象が決まるのか


飲食店において、トイレは「ついでに使う場所」と考えられがちです。しかし実際には、トイレでその店の印象が決まることは少なくありません。料理や接客が良くても、トイレに違和感があれば、その接客体験は薄れていきます。


逆に、トイレにまで気遣いが行き届いている店は、「また来たい」という印象を残します。つまりトイレは、単なる設備ではなく、体験の一部です。


■トイレは“単価を成立させる空間”である

結論から言うと、よい店はトイレを「設計」しています。特に高価格帯を目指す店舗において、水回りの完成度は単価を成立させる重要な要素です。


私がまだ新卒で都内で働いていた頃、とある接待の鞄持ちで東京日本橋にあるマンダリンオリエンタルのレストランフロアへ接待に行ったことがあります。そのレストランフロアはホテル利用者とレストラン予約者しか利用できないフロア専用トイレがあり、その世界観が当日の夜の東京として大変素晴らしかった記憶が今でも残っています。夜景を見下ろしながら過ごし、レストランへ戻る。ホテルのレストランでの「背筋を伸ばす食事」の小休憩にふさわしいの体験でした。


もしそのレストランフロアのトイレが普通の真っ白で窓のないトイレだとすればどうでしょう?料理やサービスだけではなく、空間全体の体験として価格が評価されるため、トイレだけが切り離されている状態では、その価格に説得力が生まれません。

トイレは、店の世界観を補強する最後の空間です。

ここが成立して初めて、その店の単価は成立します。


シンプルな空間にゴールドのテクスチャが光る、整体院のトイレ空間
シンプルな空間にゴールドのテクスチャが光る、整体院のトイレ空間

■よくある失敗|トイレだけが“現実に戻る場所”になっている


多くの店舗で見られるのが、客席は整っているのにトイレが追いついていないケースです。例えば、客席では落ち着いた照明や素材で世界観をつくっているのに、トイレに入ると急に明るい白い空間になり、既製品の設備だけが並んでいる。この瞬間に、体験は途切れます。


特に単価を上げたい店舗ほど、このギャップは致命的です。客は無意識に「この店はこの価格帯ではない」と判断します。トイレは滞在時間の中で必ず使われる場所です。つまり、体験の中で“逃げ場のない評価ポイント”でもあります。



■なぜ失敗が起きるのか|水回りを“コスト”としてしか見ていない


この問題の原因は、水回りを単なる設備として扱っていることにあります。予算配分の中で、厨房や客席を優先し、トイレは最低限でよいと判断してしまう。しかし、この考え方では体験としての一貫性が失われます。本来、トイレは「店の世界観を締める空間」です。


ここで違和感が出るということは、空間全体の設計が途中で途切れているということでもあります。つまり、水回りに投資しないという判断は、単価を上げる機会を自ら捨てていることと同じです。


あえてタイルといった素材にコストをかける
あえてタイルといった素材にコストをかける

■正しい考え方|トイレは“記憶に残る空間”として計画する


トイレは、単に清潔であればよいわけではありません。重要なのは、その店らしい体験が続いているかどうかです。例えば、

・客席と同じトーンで光を落とす

・素材や色味を連続させる

・鏡や手洗いの設えに余白を持たせる

こうした工夫によって、トイレは“ただの設備”から“記憶に残る空間”へと変わります。特に高価格帯を目指す場合、この差は顕著に現れます。料理が同じでも、「また来たい」と感じる店とそうでない店の違いは、こうした細部に宿ります。


■細部の設計がリピートを生む


これからの飲食店は、単に美味しいだけでは選ばれません。似たレベルの料理が増えている中で、どこで差がつくかというと「体験の完成度」です。その中でトイレのような細部は、意外なほど大きな役割を持ちます。


特にワンオペや小規模店舗では、一度の来店を確実にリピートにつなげる必要があります。そのためには、「この店は違う」と感じてもらう体験をつくることが不可欠です。トイレは、その体験を裏切らないための最後の設計ポイントです。


よい店はトイレが設計されています。それは見た目の問題ではなく、単価とリピートを成立させるための必須条件です。空間は細部で評価されます。その積み重ねが、店の価値を決めます。


トイレまでデザインの連続感があり、空間体験が途切れないカフェデザイン
トイレまでデザインの連続感があり、空間体験が途切れないカフェデザイン

■細部の設計から価値は生まれます


もしこれから出店を考えているのであれば、客席だけでなくトイレまで含めた体験設計を意識することをおすすめします。SHIRAI ARCHITECTSでは、単価や事業戦略を前提に、細部まで一貫した空間計画を行っています。高価格帯への挑戦や、リピートされる店づくりを考えている方は、ぜひ一度ご相談ください。



■体験の途切れをなくすこと

設計事務所の役割は、客席をきれいに仕上げることではありません。空間全体の体験が途切れないように計画することです。トイレは、その中でも特に重要な場所です。なぜなら、必ず使われる場所でありながら、最も見落とされやすいからです。ここをどう設計するかで、店の印象は大きく変わります。トイレまで含めて一つの体験として成立しているかどうかが、リピートの有無を分けます。

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